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ごはんを食べよう国民運動推進協議会主催

「高まる食品リスクと日本農業への期待」

とき 平成20年6月13日
ところ 全国都市会館(東京都千代田区)

嘉田 良平 横浜国立大学大学院(環境情報研究院)教授

嘉田 良平
横浜国立大学大学院(環境情報研究院)教授


高まる食品のリスク、リスク管理の課題

 昔の食品のリスクといえば、ほんの一部でした。細菌ウイルスにやられて、おなかが痛くなったという食中毒です。その件数は今とほとんど変わりません。年間、大体20万件ぐらい起きています。しかし、今起きている様々なリスクというのは、その範囲とか、程度とか、対象とか、むやみやたら暴力的に広がっています。例えば、化学物質、環境汚染物質、ダイオキシン、これが問われるようになってきました。これは農業が起因していません。原因ではありません。外から降ってわいてくる食料へのリスクです。

 人獣共通感染症という例えばBSEもそうですし、鳥インフルエンザもそうです。野生動物が運んでくる。海外から持ち込まれる。これまでになかったようなことです。自然災害は、よりバイオレントになっている。様々な人為的なリスク、コンプライアンスの問題も、ますます人々の不安感をかき立てる。食のリスクの要因はこれほど広がっています。

 さらに、グローバル経済が進み、国際社会の変動がそのまま国内にすぐに入ってくるという意味では、食のリスクの変動性も高まっています。海外で起きているさまざまな感染症その他のリスクが直接、非常に短期間のうちに入ってきてしまう。しかも、その影響の程度が大きいということが今進んでいるわけです。量・質ともに、このリスクが高まってくるという状況にあります。ですから、これは自給率が低い、例えば39%ということは、61%の海外の変化が直接に我が国に影響するということです。国内できちっとやっていれば、その影響は避けられたかもしれない部分が非常に高いリスクになっているということです。だから、どうすればいいのという問題が問われるわけです。

 リスク管理をきちんとやりましょうねと、一言で言えばこういうことになります。一番大事なのは発生を未然に防ぐシステムをどう構築するのかということです。けれども、確かに、安全・安心があるという一つの最低限の抑え、そういったものも我々は必要になってくるんじゃないのか。地産地消価値というのをもう一度見直す、日本全体でそれを考え直すという、そういうことが必要になってきたのかなというふうに思うわけです。

揺らぐ世界と日本の食料安全保障

 世界の食料の需給バランスは基本的な形で崩れてきています。つまり、需要が供給を上回って、そして在庫を食いつぶしているというのが今の状況です。需要の増加は人口と経済発展、これはお決まりの話で生産性は余り伸びない。そこに地球環境の問題が出てきた。このような状況の中で、やはり問題が深刻化しています。

 近年話題になっているバイオ燃料の需要拡大は、食料とエネルギー、エネルギーが食料を奪い合うという構図を作り出し、食料の安全保障を揺さぶっています。のみならず、新たな環境問題をも引き起こしています。

 日本の食料、農業は持続可能か、大丈夫か。大丈夫ではないですよね。食料自給率が低過ぎる、環境負荷が大き過ぎる、食品廃棄率、捨てているのがやたら多過ぎる。相当まじめに反省しないと、これはやばいですよ、と私は思います。

持続可能な農林水産業の条件

 では、持続可能な農林水産とは何か。3つの条件が不可欠だろうと私は思っています。

 1つは、自然環境、あるいは環境への負荷というものを、より小さくするような仕組みです。環境保全型農業というふうに置きかえてもいいと思います。

 2番目は、農林水産業そのものが何としてでも社会経済的に成り立つことということです。そのためにはどうすればいいのか。補助金とか政策支援のあり方というのをもう少し見直さなければいけないと思います。例えば、グリーン購入という考え方があります。

 3番目に、食品安全のシステム構築です。つまり、安全・安心というものがないと、これはだれも買ってくれません。

 (1) グリーン購入

 ここで、グリーン購入とは、原料調達から消費、廃棄までの環境負荷をすべて考慮したものを扱うことです。つまり、環境に配慮したことに対するお礼を社会がするというふうなことです。例えば農業生産で言えば、農地や河川を汚染しないとか、化学資材はたくさん使わない、生き物に優しい、そういう配慮をした農家に対してプレミアムをつけると、こういう話です。つまり、そういう農作物を優先的に扱う。実は、そういう動きというのは、欧米ではもうかなり数年前から広がっております。我々も実験的に幾つかのことを今始めておりますけれども、企業のCSRという動きもありますし、流通業界がそれに目覚めてくれれば、できなくはない。

 (2) スローフード運動

 1986年にブラという北イタリアの小さな町で起きたスローフード運動というものに、私は注目しています。今でも非常に根強い人気がありまして、世界じゅうで広がっている運動です。これには、3つのポイントがあります。

 一つに、地域の食材を使おう、そして、伝統食というものをもう一度見直そうということ。2番目に、地域の足元の農家、中小の農業者あるいは飲食店、調理人といった人、つまり、伝統食をつくる調理人を支えて、そして、新鮮な食材が提供されるような仕組み。3番目に、一番大事なのが、子供たち、未来を支える子供たちに本物の味、味覚というものを提供し、彼らに本物の味を小さいときから味わっていただこうということです。

食料自給率向上へ

 以上、このように見てきましたが、私がどうしても引っ掛かっているのは、食料自給率という問題です。こんなに低い自給率でいいのか。みんな、これはだめだ、何とかしろと言うんですけれども特効薬がありません。具体的にどうしようという話もないし、農水省あたりはこれまで、これだけ30年、40年努力してやってきたのに、結局下がる一方だった。辛うじて最近は40、39というあたりでうろうろしていますが。

 そもそも自給率というのは分母と分子があります。分母は我々が一体、総消費量です。逆に言えば供給された量です。では分子は何かというと国産の食料です。海外のものよりも品質と価格の両面で競争力があって、初めて国産の農産物が選択的に選ばれる。ただし、これは日本農業だけの問題ではない。選ぶ主体は農家だけではないんです。我々が選ぶわけです。何を食べるか、この中身が、どういうふうにつくるものを選ぶかによって変わってくるわけです。そこに注目していただきたい。

 今、ざっと100分の40です。この100分の40を、私は、もう10年間で分母を、100を90にスリムにしよう。分子を、40を55に上げる。15年という夕一ムをとれば、分母を1年に1ポイントずつ下げていけばいい。分子は1.5ポイントずつ上げていけばいいわけです。10年計画を立てれば決して非現実的ではない。じゃあ具体的にどうするのか。

 ごはんを食べよう国民運動の次の10年の目標を、例えば、こういうところに置いてもいいのではないか。というのは米、ごはん、水田というのがキーワードになるからです。

 1、食生活の見直し。メタボな胃袋をスリムにする。あるいは、我々の食生活を変えれば、ダイエットを兼ねて、自給率向上につながるんだということがわかれば、これは協力だって得られやすいのではないか。そのためには分母を考えれば不必要に買わない。もう一度目本型食生活のおいしいところに回帰したっていいじゃないかということで、メタボのスリム化という作戦であります。

 2、スローフード運動を日本語ふうにいって地産地消、地域のものを地域で食べる。句産旬消、旬のものを、食材を優先して食べる。旬のものを食べれば国産に大きくシフトすることになります。土産土法、これは私の言葉でありますが、その地域の食材を使って地域独自の調理法で食べるということです。もう自給率上がるに決まっています。こういうパターンをもう少し、語呂合わせでありますが地産地消、句産旬消、土産土法というのを毎日のようにお経を唱えて、関係者は努力する。こういうのはいかがでしょうか。

 3、ご飯をあともう一口食べる。この7グラムのお米で、自給率が1%上がります。つまり、39%が40%になるわけです。ただし毎日ですよ。これは大変と言えば大変。しかし、もし毎日、100グラムのおにぎりをもう一個ずつ食べれば、生産調整は要らなくなります。これは無理な話でしょうけどね。自給率は12%上がります。これはすごいというわけです。それは無理としても例えば、輸入小麦の通常のパンを米粉パンに切りかえる。マイナスをプラスに転じられますから、これを往復びんたみたいな形でね。一気に恐らく2、3%上がるでしょう。

 4、環境配慮、食べ残し、生ごみを減らす。宴会場であれば、宴会場の主任がね、残さなくても済むような、残すことによって自給率が下がっているということに早く気がつくべきです。今、宴会場の大体食べ残しというのは半分近く残っているんだそうです。もうほとんど輸入ものです。だからそれを減らせば自給率上がるんですよ。分母の100が90にできるわけです。ならば宴会場の主任も協力してもらわなきゃいけないわけですね。

 要は、塵も積もれば山になります。そして、できるところからスタートしてやっていこう。そしてポイント制度にでもできれば、楽しみながら家庭でゲーム感覚で自給率、私は、きょうは3ポイント獲得したわよというのでグラフにしていけばいいわけです。こんな形の運動にしていけば、自給率についてもかなり意識の革命が起き、そして現場を何とかしたいという流れができるのではないかなあと思います。

結語

 我々は、ごはんをいただくときに、神様のこの豊かな恵みをいただきますという感謝を込めて、知らず知らずのうちに言います。「いただきます。」非常に良い習慣だと思います。

 もう一つ、言ってほしい言葉があります。それは、「おはしの先に何が見えますか。」

 おはしの先、これをつくった人は誰だろう、どんな環境でつくったんだろう。それが見えるような仕掛けにして意識すれば、自給率も良くなります。

  環境も食品安全も、極端な輸入依存によって、かなりの程度を失ってきてしまいました。ここを何とか、環境を取り戻したい、食品の安全性が欲しいというのなら、「おはしの先に何が見えますか。」と問いかける習慣を、事あるごとにみんなで言えば、少しは変わってくるのかなあという気がするわけであります。

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