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ごはんを食べよう国民運動推進協議会主催

「日本の食文化〜心と命を育むお米と食」

とき 平成18年6月21日(水)15:00〜16:10
ところ 都道府県会館(東京都千代田区)


漫画家 里中 満智子 氏
(大阪芸術大学芸術学部キャラクター造形学科教授)

 
はじめに

 今日は一年で一番日が長いと言われますけれど、どんよりとしております。季節の移ろいがあるというといのは大変有り難いことで、季節のメリハリがはっきりしている、その中で我が国の農業は発展してきたと思います。世界には色々な気候がありますが、私はつくづくこの国に生まれ育ったことで、色々な恩恵を被ってきたと思わずにはいられません。我が国の農業も歴史を遡れば、かなり古くからこの気候の恩恵を被り発展してきたことは確かだと思います。
 お米にしましても、最近では、実は縄文時代からお米はあったなどと言われていますが、私たちが想像する以上に古い時代からかなり北の方でも栽培されていたということです。北の方の大昔の遺跡から出てくる水田跡から、木炭が見つかったそうですが、木炭を水田に埋め込む事によって水質管理と水温調節もしていたのではないかと言われております。努力をして工夫をしてお米を守り食べてきた、それにより満たされたことは、人口の増加、そして体力の増強です。
 今日は、「ごはんを食べよう」という事ですけれど、私は夢として、世界の多くの方に日本の農産物をもっと食べていただきたいと願っております。冒頭で木村先生からもお話があったかもしれませんが、今、やはり日本の食の安全ということが見直されるというか、これまで気づかれなかった部分が多いのですが、世界の中でも有数な、安全な食ということで、日本の食材が特別な地位を占めるようになってくるのではないかと思います。

食の原体験

 食べ物がないというのはどういうことか、どんなに辛いことかというのはただ食い意地だけで身にしみて感じております。決して食糧難の時代に育った訳ではない戦後世代ではありますが、それでもやはり仕事柄色々な国に行きますと、食べ物が満ち足りているということがどんなに有り難いことかと思います。
 ごはんを食べようということですが、私は麺類もパンも大好きです。なんでも食べます。でも、その私がやはりごはんが大切だと思うのですから、決してごはん党言っていることではないと思って聞いていただければ幸いです。麺類には麺類のパンにはパンのおいしさがあります。それぞれを楽しんだ上で尚かつごはんの大切さというのを身にしみて感じております。ごはん一辺倒の人間が、だからごはんはすばらしいということを言うために来たのではないという事を汲み取っていただければ幸いです。いずれにしましても、私は団塊の世代で、この中にも同じ世代の方がいらっしゃると思いますが、人は食べなければ生きていけない訳です。ほとんどの動物がそうです。食べるということは、生きていく上で必要であり、実は命というのは食べ物でつくられているわけです。それは生まれてからというわけではなくて、実は体内にいるときから母体が何を食べるかによって変わるわけです。幸いにして、私が育った環境は食に熱心な家庭だったものですから、物心ついたころからというよりも、母の体内にいるときから一所懸命栄養を分けてもらっていたという背景があります。それは母のお陰ではなくて父のお陰なんです。父は料亭の息子だったもので、食べることには大変熱心でした。当然料亭の息子ですので調理師免許ももっておりまして、そういう職についておりました。だから私の母は、正直ほとんど料理が出来ません。食を扱うプロの仕事をしている男の方は、家に帰ってまで、食事を作りたくないというのが普通だそうですが、私の父は、よほど家族を愛していたのか家族に食べさせたいということを一番に考える人で、忙しい仕事の合間、母にひたすらあれを食べろこれを食べろと言っていたそうです。
 父のポリシーはバランスよく何でも食べるということでした。お陰で母は大変健康に私が母の体内にいたのは昭和22年ですけれども、その時代食べ物は不便な時代でしたが、母は元気いっぱいで体力があるものですからお産に臨んでも大変気力体力とも充実しておりまして、産み落ちた私は昭和23年の1月生まれですが、なんと体重3800グラムありまして、驚異的な赤ちゃんとして大阪市から表彰されました。
 産まれて物心ついてこのかた、私が最初の記憶としてありますのは食卓のイメージです。何でも食べさせてもらいました。食べ物というのは色が揃っていればいいのだと、子供にもわかるように教わりました。色というのは黒、白、赤、緑、黄色です。ぱっとみてこの色が揃っていればいい、白はごはんがあるからとりあえずそれでいい、おかずを他の色で揃えろとそういうふうに教わりました。母が料理をしないものですから、父は小学生になった私に一通りの料理を教えてくれて、小学校の3年生位からは一通りは作れるようになり、4年生になると自分で食料の調達に出ておりました。
 今のように電気冷蔵庫があるわけではありません、氷の冷蔵庫しかない時代でした。当然電気釜とか電子レンジなんて夢のまた夢でした。その中で色々工夫しながら、こどもながらに色々食べてまいりました。どうすればおいしく食べられるかなと。その中で、今と当時と扱い方が一番違うのはごはんです。当時ごはんはその都度炊かなければおいしくない物でした。今私はさぼっておりまして、その都度ごはんを炊くことはしません。妹と母と暮らしていますが、母は相変わらず食事の支度をしませんので、だいたい夕食は妹が作ってくれます。お昼はどうしているかといいますと、電子レンジを利用しています。さぼり癖がつくといけないのですが、炊いたごはんはどうしても余ってしまいます。昔は蒸すか、炒めるか、おじやにするかしか出来なかったのですが、今は電子レンジでチンすると、色々と工夫しておいしくごはんがいただけます。ここ一週間で凝っているのは、ごはん一膳分をチンして、少し深めの器に入れます。そこにひたひたになる位の牛乳を注ぎます。その上に夕べの残りの肉でも魚でも野菜でも何でもいいんですけれど刻んで、上からかけます。量は適当です。そしてチーズを器に蓋をするようにたくさんかけて、その上に割りほぐした卵をのせてチンします。すると、とろとろのほくほくのこれは一体どこの国の料理だイタリア料理かと言われそうなものが出来上がりますが、カロリーがありますから体力も蘇ってまいりますし、お昼過ぎの疲れた時間にちょうどいいというので、ここ一週間凝っております。こういう風に使える、チーズとか牛乳とか余り物の肉とか魚だとか、何でもごはんと合体しておいしくいただけるのです。主食ですからどんなものでも合うというのは当然なんですけれども、たとえば世界の有名な他の国の色々な料理がありますが、どこの国の料理でもごはんのおかずとして合うんです。ところがパンになりますと、私はキムチをおかずにパンを食べる気にはなりません。納豆をおかずにパンを食べる気にもなりません。色々とパンとは合わないと思うおかずはたくさんあります。ところがごはんというのはチーズや牛乳、バターでも何でも合います。世界のどんな調味料や料理とも合うわけです。だから、工夫次第で、夕べどんな余り物が出ても、家庭の主婦でしたら自分一人分なんて面倒だと思われても、そういう風においしくいただけて、子供のお夜食にもおやつ代わりにでも、何にでもなります。甘みを加えて加熱すればお菓子のようなものにもなります。昔は色々と、揚げたり、残ったごはんを乾かして油で揚げて砂糖をまぶしたおやつもありました。ごはんを油で炒って、あるいはから炒りして旅の携帯食にした、そういう時代もありました。

風土に応じた食文化

 今子供たちがあまりごはんを食べないといわれますけれども、色々と運動が実って学校給食にもごはんが取り入れられるようになり、見直されてはいるのですが、如何せんこれから先日本の人口はどんどん減ってまいります。そしてお年寄りが増えていきますが、残念ながらお年寄りは若い人ほど大量に食べられません。食べられないからこそ、食材に工夫して、高栄養、高カロリー、消化吸収のいいものを取る必要があるのですけれども、ついつい高栄養となると西洋風のおかずを思い浮かべがちです。しかし大切なのは吸収率です。吸収率というのは、私たち人間というのは雑食で、そのせいでそもそも腸が長いのですけれども、特にアジア系民族の腸は長いと言われております。それは植物性の食物をたくさん取るので、腸が長く発達してきたのだと、そう言われております。自分たちの体にあった食、これが長寿の源だと思います。無理をして西洋風の高カロリーのものを食べて、それが体にいいとパワーがつくといって無理をしても、長い腸ではかすが溜まるばかりです。もう一度の日本食を見直そうというのは、健康のためでもあるわけです。ヨーロッパ系の食事は、どうして肉が中心になったかというと、ヨーロッパは大変寒い地域です。米を作るのに適した土地ではありません。そのためどうしてもアミノ酸不足になりがちです。それを補うには、肉を食べないと持たないんです。ですから北方民族が肉をたくさん食べるというのは、生きていくうえで必要だったわけです。しかし、米を主食としている地域の人々は肉をそんなに食べなくてもお米に含まれる様々な養分が命を助けてくれる。それで、肉食文化がそれほど定着しなかったということもあります。広大な中国でも、かなり肉食文化が定着しているところはありますが、中国と一口に言いましても、かなり乾燥した、水分の少ない土地が多いんです。そういうところでは、十分な緑黄色野菜が育ちませんので、アミノ酸補給のためには羊の肉とか牛の肉などを摂らないとアミノ酸が十分にとれない、そういう事情もあって、北方民族であればあるほど、肉食に依存せざる得なくなった。だから気候風土にあった食で各民族や各地域命をつないできたわけです。戦後日本が豊かになって、西洋型の社会に憧れて、西洋式の食事が進んだ食事だとそういったイメージがあったかもしれません。
 日本の国土というのは遙か大昔から今に至るまで、ほとんど水が枯れることのなかった国土です。これは高い山があり、険しい谷があり、川が多くて流れが急であって、常に水分がいっぱいに満たされているそういう国土だったからこそ、色々な作物が育った。そのありがたさというのは枯れた土地が多い他の民族にはなかなかわからないことと思います。私たちは当たり前のように水の豊かなこの国土に生まれ育ったのですから、飢饉といいましても、確かに何度か江戸時代にもありましたが、民族が壊滅するほどの飢饉にはあわずにきたわけです。どうしてそんなに水が豊かだったかというと、実は水田がもつ保水能力、これも大きいものがありました。減反政策でどんどん田んぼが潰されていく。それでいいのか、だって国内で消費される米が少なくなるのだから、田んぼをどんなに作っても守ってもお米を作っても、消費できないのだからという方針のもと減反政策がとられてきた。その都度よかれと思って色々な政策がとられてきたのだと思います。
 だけど是非今残っている水田は保持してもらいたい。これは環境問題とも結びつくんです。田んぼというものがどれだけ環境守るために役立っているか。田んぼに満たされたあの水の量だけでもそれだけ私たちの国土を潤しているか。皆さんもご存じのように、田んぼで水を調整しているからこそ、洪水の危機が逃れるといことはたくさんあります。そんなに米を作ってどうするのだという意見があると思いますが、ではどうして国内消費だけを考えないといけないのかと私は思います。

中国の今

 私は自分の仕事の関係で、文化交流として、韓国や中国の人たちと長年親しく付き合っております。ボランティアで現地の若者たちに漫画を教えたり、そういうことで日本人の心を伝えたりすることで、いい関係が出来上がっております。その中で近年特に中国の友達から聞く話なんですけれど、中国では経済の発展に従って食糧自給率がどんどん落ちている。だけど何より一番深刻な問題は、中国の土壌の汚染です。その友達からここだけの話だと聞くのは、中国の食物は食べたくないと、日本の食を味わいたいと言っています。本当に日本のお米や果物は世界最高です。台湾の人たちが日本に来たら絶対に果物を買って帰る。日本に行ったのに果物を買って帰らないと馬鹿にされると言われるそうです。ですから昔は、羽田空港の税関の中や台湾便の発着コーナーには、検疫を済ませた持ち出し可能な旬の果物の箱が山積みになっておりました。それを担げるだけ持って帰るそうです。もも、りんご、なし、ぶどうなど。今は更に日本の果物は世界中から注目を浴びています。そしてお米も本当においしいと東アジアの友人たちに言われます。なぜ売らないのかと言われたりもします。先ほどの私の中国の知り合いの話ですが、正直言ってこの経済格差の激しい中国の中で、お金持ちは増えています。そういう方たちはどこで食材を調達するかというと、お金持ち向けの外国人専用のスーパーマーケット、今は現地の方も利用しますが、高級食材です。高級食材として扱われているものが何かというと、減農薬、低農薬、安全な食なんです。お金があるのだから、少しくらい高くても安全なものを食べたい。まして子供には安全なものを食べさせたい。そして中国の土壌の汚染の実態を彼らは身にしみて知っておりますから、恐くて子供には食べさせられない。

提案1:日本ブランドの食材の輸出

 中国の経済発展は急激すぎて、農村にもそんな影響が及んでおります。農村で現地で農業に従事している方は、その農薬の怖さも知らずに全身に農薬を浴びながら、これで収穫量が上がると喜んで散布し続けてきました。人間に対する健康被害もどんどんでております。本当に深刻な問題です。水も汚染されています。ですから今のところ、まず野菜、そして米ときているわけですが、蓄積されたものが影響を及ぼしているものに、ついにお茶とか油にまで及びつつあります。お茶の産地としてお茶の歴史を誇ってきた中国ですが、私は大変憂いております。茶葉に含まれているその毒性の強いもの、これは洗っても消える物ではありません。そして、その農産物から絞る油、そして果ては酢に至るまであの豊かだった中国の食文化が犯されております。そして、安全な食を求めている人たちがいます。どうか、積極的に中国の次の世代の子供たちの健康を守るため、そういう友好の立場からも是非、中国への売り込みを考えていただきたい。誤解されてはいけないのですが、人の不幸に乗じて売り込みみたいに言っていると思われるといけないのですが、本当に深刻に悩んでいる人たちがたくさんいます。では、それをどういう人たちが食べるのかというと、悲しいながらそれを手に入れることが出来る一部の富裕層に限られるかもしれません。だけど日本がこの狭い国土の中で、長年工夫して収穫量を上げてきたこの実績この技術を、輸出するということも大切かと思います。世界の色々な乾燥地帯は、どんどん乾燥し続けています。そういった地帯の土壌改良からその治水まですべて含めて、我が日本が誇れる技術というのをいくらでもあります。ですからまずは食材を日本ブランドとして売る。この方針を今、知的財産戦略会議というところで、日本の持っている知的財産をもっと積極的に海外に売りこもうと。
 これは著作権問題や特許の問題を含んでおります。最初はその知的財産というと、私が属しております漫画とかアニメとかそういうものも、これまでは放っておいても勝手に売れていたのですが、もっと誇りを持って日本の文化として、売りだそうということなんです。映画とかファッションとか建築とか色々あります、その中で食というのも前年度のまとめに入れてもらえることになりました。これは最初、日本料理は決して一時のブームではなく、定着しつつあると、これは健康面から注目されて定着しつつある、そしておいしさに目覚めた世界の人々が日本料理を取り入れようとしている、そういうところから始まったのですが、一歩進めて、日本料理だけではなくて、食材そのものも胸をはって堂々とこんなに低農薬なんですよ、これだけ安全な食材なんですよと胸をはって売り込もうというではないか、そういった方向になってきています。国は一応かけ声をかけてくれていますが、これからは地方の時代と言われて久しいですが、どうしても行政単位とか地方の自治体の単位になりますと、国のやり方に習ってとか国の許可がないだとか国の方針に従ってということがどうしても出てしまうかもしれませんが、どうか突破口を開いて各自治体単位で海外と取引していただきたいと思います。その中に食材の輸出というのを国の方針と平行して、各自治体、行政単位でやっていただければこんな素晴らしいことはないと思います。
 食は文化であり文明であり、そして技術でもあります。そして著作権や特許も絡んできます。国土が狭いからこそ培ってきた技術もあります、そしてこんな地域では採れないだろうと思われる物も作って来ました。そして改良してきて本当においしいお米、これは主観の問題ですから水分の多い粘っこい米をおいしいと思わない地域の方もいます。だけど和食ということをキーワードに、日本食や日本料理に合う米はこれだということで広く欧米各地に売り込めるわけです。一時期我が国で米不足があり外国米を取り入れた事がありましたが、これは国同士の色んな政治的な駆け引きもあります。カリフォルニア米やオーストラリア米、そして東南アジアの米もありました。確かにその国の調理の仕方によって合うお米合わないお米色々あります。それを楽しめばいいわけなのですが、私はあの騒ぎの中で、それ以前から実はカリフォルニア米のおいしさというのは知っておりました。意外とおいしいんです。意外とおいしいと思う裏にはアメリカ農家の努力があるんです。日本に売り込もうという積極的な政策のもと、日本人が好むお米を作ろうという彼らの積極的な姿勢には見習うべきものがあると思います。今牛肉問題で騒がれておりまして、本日輸入再開が決まったそうですけれども、日本に売るのだったらこうしようという商売として考える積極的な姿勢はやはり敬服すべきものがあるかと思います。だけどやはり私たちは安心して食べたい、安全な食を食べたい、目の届く範囲でどう作られているかを知ることが出来るものを食べたいわけです。今こそ日本にとって輸出国になるチャンスだと思います。何度も言いますが、この狭い国土で、狭いといいながらしかし水は豊富だったその恩恵を受けて、培ってきたそして実った安全な食を、どうか積極的に日本ブランドとして各地方のブランドとして、世界に売り込んでいただきたいのです。ごはんを食べようというのは国内だけの話ではないんだということです。どんどん食べていただいて、そして一度潰してしまった田んぼを戻すのは不可能に近いことですが、他の農産物を含めて土地の有効活用を考える。

提案2:若者の働き手受け入れる態勢づくりを構築する

 そして若者の農村離れが甚だしいと言われますが、実は農業にも魅力を感じている若者もたくさんいます。その若者たちを受け入れる態勢を整えている地方もあります。農業は格好いいんです。なぜ格好いいかというと、実りが自分で確認できるからです。実りが自分で確認できない数字だけの世界ではないんです。その魅力を感じている若者たちが働き易いように各地方で若者の働き手を受け入れていただきたいですし、そして何より若者が少なくても、昔と違って60や70で体力が有り余っている人がいっぱいいます。私も少し背伸びすれば還暦です。でもまだまだこれから仕事をいっぱいしようと思います。昔だったらこの歳になれば縁側でお茶を啜りながら猫ののみ取りをしている、そういうイメージだったんです。それが未だに10年経ったらこんな仕事がしたいなんて思っているわけです。私たちの世界でも現役でやってらっしゃる70代や80代の方がいっぱいいます。私たちの仕事はその代わり保証されていませんので30代で仕事にあふれる方もいます。でもその厳しさが魅力なんです。どんな仕事も楽な仕事はありません。漫画の話になって恐縮ですが、ついでに言いますと、最近料理漫画というのが結構人気なんです。それを見て小学生の男の子でも料理に目覚める子供が増えているわけです。自分の工夫でこんなにおいしくなるんだということがどれだけ精神的にも喜ばしいことか。だから台所を女性だけが預かる時代ではないんです。少子化と言われますけれども、子供の数が少ないとそれだけ手がかからなくて、早く第二の人生第三の人生が楽しめるそれくらい前向きな気持ちで農業に取り組む人がいてもいいし、これから勉強しなおして品種改良を研究する人がしてもいいし、そして本当に無農薬の素晴らしい収穫方法を考える人がいてもいい、色々皆さん取り組まれています。鴨を使って水田を保持して、そしてそのまま育てた鴨をいただくという、その発想は素晴らしいと思います。鴨には申し訳ありませんが、このしぶとさが人間なんです。人間はしぶといです。身勝手なんですけれども、このしぶとさでなんでも食べて生きてきたんです。なんでも食べて、ほとんどのものを消化してエネルギーに変えてきた。

発想を変え前向きに工夫を!

 脳というのは、ものすごいエネルギーを使います。知恵を働かせてこんな長生きしてこんなに元気で、他の生き物に比べて長寿で、現役を長く続けられるのは色んなものを食べているからです。日本人が長命なのはごはんを主食にして色んなおかずを取り入れるからです。幸いにして日本には食材に対する宗教的なタブーはありません。何でも食べます。世界の色々な食べ物が一般家庭にこんなに並んでいる国は他にありません。こうやって融通を利かせて何でも取り入れてきた、だからこそ色んな事にチャレンジできてきた訳です。世界に誇る日本の農産物、国土の狭いなんて嘘なんです。国土の広さの割に有効利用できる土地面積はあるわけです。どんな斜めの土地でもどんな急なところでも耕して、みかん畑にしたり水田にしたりしてやってきたんです。それでどんどん人口が増えて急激に人口が減ったなんていうことがほとんどないままここまできてしまったわけです。人口が減り始めたと言って慌てる人がいますけれど、慌てる人というのは、人口が増えても慌てるし、人口が減っても慌てるんです。気温が高くなったと慌て、低くなったと慌てる。どんなストレス困難も、戦争と比べると大したことはありません。そう思えば明るい気持ちで、未来の、この21世紀の後半に向けて、農産物輸出国として生きていく道はいっぱいあるわけです。少子化は幸運です。国内で食べる量が減れば、売る量が増えるわけです。世界の至るところで水不足や飢饉で食糧不足に悩む人たちがいます。そういうところに、国としても費用をかけて、農産物を買い上げて、届ける。そういう援助の仕方が、我が国にとって一番素敵でわかりやすい協力の仕方かと思います。でもそれをする背景には、豊かな作物がないと駄目なんです。そして相手の国の食糧事情に合わせたアドバイス。かつては日本から米を援助しても、インディカ米を食べる人々にとっては、ジャポニカ米はおいしくないと言われたことがあります。これは色んな受けとめ方ができます。どんなものにも文句をつける人はこのように必ず言います。料理の仕方をたくさん知らないとどうしていいかわからない、そういう人もいます。だから広く世界の事情を知ることができる、これは大変大事なことです。我が国は幸いにして情報の遮断もありません。世界の色々な国の情報を知ることができます。その中で売り込むだけではなくて、こう食べるのがベターである、私たちはこう食べてますよという、和食のレシピも一緒に輸出するのだと、そういう気持ちで輸出に向けてがんばっていただければと思います。

尊重される農業

 我が国は実は自給自足できる能力があるわけです。ところがあれこれ食べたいという大変欲張りな民族ですから、珍しい物があれば食べたいし、国内で採れないものがあれば輸入してでも食べたいという、この欲深さはどうしようもないのですが、好奇心の強さだと思って、何でも食べるからこそ工夫も出来る、そういうきっかけにもなるんだと受けとめて、多少の余裕は、これはよその国との協調関係もあり、政治的な配慮もあり、必要だと思います。でもそれを上回る食糧輸出国になれれば素敵だなと思います。ヨーロッパでは、農業は大変尊重されていて、私たちが一見、いわゆる先進文化国家のように思える国でも、実は国の機関は農業なんです。フランスなんて農業大国です。フランスの田舎に行って、農家の土を触って、なんてしっとりとした黒い素晴らしい土がいっぱいありました。これはいい作物ができて当たり前だと思いました。

ワインと日本酒

 ところが、たとえばぶどうの生産一つとっても我が国とフランスでは作り方が違います。皆さんご存じのように、土の湿度が違うとか大気中の湿度が違うことで作物の作る高さが違います。日本ではぶどう棚は高いところに作りますが、ヨーロッパでは日照が足りないので地面に白い石を敷いてぶどう畑の低いところで照り返しを利用する。高いところにするとあまりにも空気が乾燥しているので低いところで作るわけです。だから日本のぶどう棚のイメージでいくと人の背丈は隠れてしまうんですけれど、ヨーロッパでは背丈が見える位の高さにある。ほったらかしでその辺でぼうぼうに生えているぶどう畑もあります。カリフォルニアもそうです。色々その都市に合った作り方はあります。ところが日本人は、ワインというものを知った途端、国内でも作ってしまえと思うんです。こういう意欲は素晴らしいです。北海道でも甲州でも素晴らしいワインはたくさん作られております。それだけではありません、日本酒、これは今世界各国から注目を浴びております。お米で出来ているからヘルシーであると。大切なのは和食に合うということです。ところが、一時日本人は和食には白ワインが合うといって白ワインを合わせるのがかっこいいとされていましたが、最近海外の方から日本酒が見直されています。そして日本人は飲み方としてこれを熱くして飲んだり、冷たいまま飲んだり、あるいはキンキンに冷やして飲んだりもする。この紹介の仕方がよかったと思います。酒は熱燗に限るなんて言ってると世界にあんまり広がらない。私自身も酒は熱燗より冷やの方がおいしいと思います。人の好みは様々です。そして現地の人がどういう料理を食べているか。西洋人の食卓に上りやすい料理に対しては冷やの方が合うんです。熱燗ですとあのにおいが料理と調和しないことがあります。頑固にならないで、冷やでもおいしいですよということで、冷やはアメリカのセレブの中で大変流行り始めて、日本酒の利き酒大会なども行われている。どんどん積極的に売り込んでもらいたい。そのとき大事なのはイメージなんです。中身で勝負だということもありますが、やはり相手国の家族構成の人数、それに合わせた量、瓶のデザインなど、そしてこれはフレッシュなものであるということも宣伝する事が大事だと思います。見せ方、伝えるときのイメージを日本人のセンスを生かしていただきたいと思います。

日本人とお米

 色々お話してきましたが、私自身が是非出来ればあと20年くらい経った時に、今土壌汚染が深刻な地域の人たちから、日本の農作の技術から色々教わって私たちの国の土地はこれだけ蘇りましたと言われるようにしたいと思いますし、そのころは日本ブランドとして様々な食材が世界の食卓に上っていることを期待したいと思います。どうしても私たちは何気なく手に取って、フランス産のチーズとかイタリア産のパスタとか平気で買っているわけです。本場ものという意識があるからです。日本は和食の本場なんです。私たちの想像以上に和食は浸透しています。最初アメリカ人が日本人はみんなスマートだから和食を食べてればダイエットになるんではないかと誤解があったかもしれません。いくら和食でも食べ過ぎれば元も子もありません。私自身の経験では和食を海外でいただくことも多いんですけれど、やっぱりはっきり申し上げて海外の太っている方は食べる量が多すぎます。一例を申し上げますけれど、オランダで和食レストランに行った時のことですが、北海のうなぎは脂がのっていて大きくてそれを蒲焼きにして「鰻重」でいただくと最高なんですが、私は鰻重でおなかいっぱいになってしまいますところを、相手の方はオードブルに「にぎり寿司」、魚料理で「鰻重」、メインの料理で「すき焼き」とくるわけです。すごい量なんです。これじゃ和食でも食べ過ぎだよと言いたくなりますけれど、ただしそれが全部肉に置き換えられたよりはずっとヘルシーです。バランスがとれています。日本は野菜も豊富です。何より安全です。ですから今日はお米がテーマですがお米は常に我が国のおかずと道連れで発展してきたわけです。お米とおかずの組み合わせで最高なのは、シンプルでうまくできているのは、お米とお漬け物です。お漬け物がもつ乳酸菌とか酵母とかそういうもので私たちは体調を整えてきたわけです。付け足しになりますが、お米の炭水化物というのはすぐエネルギーになりやすいんです。日本人は良いことも悪いことも全部お米と一緒でした。だからごはんというとお米を炊いたものとイコールですが、もう一つ意味がありまして、ごはんイコール食事なんです。だからごはんと言って私たちは食事全般も指しているわけです。そろそろごはんにしようとか夕べの晩ごはんは何食べたとか。お米を加熱して食べられるようにしたものという意味もあるわけです。これは西洋人が宗教的に受けとめるパンと同じわけです。人はパンのみに生きるにあらずというのは、決してブレッドのパンだけを指しているのではない。
 お米は大変素晴らしいエネルギーに転換するんです。今日出かける前にニュースで、栃木県で行方不になっていた体験学習の小学6年生の男の子が無事発見されて救出されました。まず最初におにぎり2個をもらってそれを食べて元気が出たそうです。こういう時のおにぎりというのは大変素晴らしいです。色々なところでおにぎりは活躍します。おにぎりに込めた知恵と体験です。
 日本人の美意識として、いつも毅然としていたいということにこだわったのは武家社会の人たちだと思うのですが、例として、切腹の前に何かご所望はと聞かれると大抵の方がお茶漬けを所望したそうです。そんな時ですからあまり喉を通らない、だけど最期に人生最大の気力を振り絞って泰然と事に臨まなければならないわけです。そういう時に気力が欲しい、けれどすぐに気力が沸くのはごはんだということを分かっていたわけです。いただいて気力に満ちて最期に臨むわけです。なぜ武士がそれを体験で知っていたかというと、戦が始まる前に腹ごしらえはお米だったのです。なぜかというとすぐにエネルギーになるわけです。消化に時間がかからない。動物性のもの野菜は消化に時間がかかります。戦いに臨んでお米を食べるお茶漬けを食べるおにぎりを食べるというのは、理にかなっていたわけです。体験というのはすごいですね。ニューヨークにいる松井選手が試合の前におにぎりを食べるそうです。すぐに力になる大変効率がいいわけです。年をとるとあまりたくさん食べられないですけれど、柔らかくして食べることもできる、雑炊とか西洋風に言えばドリアとかピラフとか色んなこともできる、焼きめしにもできる、私のように創作して食べることもできる。素晴らしい食材なんです。

おにぎりの力

 お友達の中国人たちに聞いたんですけれども、政治的な意味は抜きにして聞いてください、その中国人が言うには、中国にはこれだけの人がいるのになんであんな小さな国の日本軍にいいようにされたか、というと、祖父から聞いた話では、日本軍は大した装備もなく乗り込んできてあれよあれよという間にどんどん勝っていったと。彼らはにぎり飯だけで突進してくると。あれに負けたんだといつも祖父が言っていると。にぎり飯のパワーってすごいですね。それで戦争に勝てとかそういう事じゃないんです。おにぎりと日本人というのは様々な歴史とともにあるという。その実体験を踏まえて、相手の祖父はいまだにあれにはかなわないと思ったと言っているそうです。そんな場で、誰も好きこのんで戦いに行くわけではありませんし、敵だって味方だってどっちも必死です。みんな生きて帰りたいし殺されたくないし、その必死な最期のその気持ちの支えに、にぎり飯だけで頑張る日本というのはなんて恐ろしいんだと。それは恐怖心に結びつくというんです。結果として歴史的なこと、政治的なこと道徳的なこと、それらはあえてここでは触れないでおきたいと思います。私個人としては、先祖の良いこと悪いこと受けとめないといけないと思いますが、先ほどお話しした事を中国人は笑い話として言ってくれるわけです。そういう関係が築けたのもお互いに信頼し合って付き合ってきたお陰だと、個人的には思っております。ですからお米のすばらしさという事の例えとして公に言うのは少しはばかれるような例ですけれども、それだけ日本人の生き方と密接に結びついていたという良い例も悪い例も悲しい例も辛い例もたくさんあったということです。

お米に対する理解

 今子供たちはあまり食べないといいますけれども、本当に色んなものを食べ過ぎてます。色んなものが簡単に作れる時代になったのに、親の世代が「私は料理が出来ないから」と言って料理をしない人が多いわけです。ですから料理ってこうでなければいけないというのではなくて、やっぱり簡単なレシピの普及というのは大事だと思います。料理漫画が多いというのは子供たちがそれだけ料理に興味がある。料理漫画が多いのは少年雑誌です。
 他に固定観念もあります。よくお年寄りの方は最近の若い者は米のとぎ方も知らないと怒るんです。昔はなぜ一生懸命といだかというと、精米が充分にできないから白米としておいしくいただく為にはしっかりと研がないといけなかった。だけど今は精米が完璧にできますから、そんなに力込めて研いでしまうと、お米がひび割れてぱさぱさになってしまって炊きあがりがおいしくないんです。なのに頑固に研いでいる人は今でもいらっしゃいます。それが女の美徳だと言わんばかりに、若者を責めるわけです。だから固定観念というのは恐いなと思います。先人たちの知恵は大事ですけれども、なぜそんなにお米を研いだのか、この理由がわからないとただの頑固な思い込みに過ぎないということです。
 最近では胚芽に含まれる栄養素が大事だとか玄米を食べましょうとか色々言われています。お米を研いで米ぬかをどうするか、お漬け物に利用してきたわけです。よく最近の子供はキレやすいといいますけれど、大人だってキレるわけです。すぐかっとなる大人も多いわけです。精神安定の為にも米ぬかに含まれる成分や胚芽に含まれる成分、ギャバ食品とか、そういうのも大事なんです。

好きなものをバランスよく食べる

 正直申し上げて、私は玄米は体にいいとは分かっていますけれど、やっぱり白いごはんの方がおいしくて好きなんです。時々親がむきになって玄米を食べろ体にいいといって一生懸命圧力釜で炊いてくれたんですけれど、どうしてもおいしくない。無理して玄米食に変えなくても他の利用の仕方でいただけるのではないかと、私はそっちを取りたいんです。あますところなくいただくためにも、そしてお米に含まれる様々な素晴らしい成分、まだまだすべてが分かっているわけではないと思いますが、米ぬかに含まれる成分が最近では癌の抑制に効果があると言われています。免疫力を高める。他のお野菜とか穀類とか色々なものにも含まれていますが、一番大事なのはとにかくバランスよくという事だと思います。バランスよく色々な物をいただ為には、何にでも合う主食があれば有利なのではないかと思っております。

まとめ

 最初に戻りますがどんなおかずにも合うのがごはん、フランス料理でも、北欧料理でも、アラブ料理でも、東南アジア料理でも、どこの国のどんな料理でも、ごはんのおかずとして適当です。これはとても大事なことです。我々は、周りを海に囲まれているお陰もありますが、海藻類もたくさん食べてきた。肉を主体にしていると海藻を食べようという気にならないんです。ヨーロッパでも最近はこの点が見直されています。私たちの食生活は滅びそうだから守らなくてはいけないのではなくて、これからの健康と長い間、呆けない為にも有効に色々な物を取り入れる為に、ごはんを主体に考えるのが大事であるということです。
 そしてお米作りに関しては、是非減反しないで今の水田は保持してそして戻せなくなった元水田は有効活用して、農業生産輸出国を目指していただきたいと思っております。上手くいけばこのまま平和でずっと過ごせる国であるでしょう。その為には私たちがしっかりしなければなりません。そして平和な国土で安心して、農業に励んで、そして飢餓地帯の人たちに食料を分けることができれば、我が国の存在意義もあるというものです。理想を抱かなければ人は進歩できませんので、大きな夢を抱いて、今目の前にあるお米の消費量が少ないという問題ではなくて、もっと素晴らしい大きな夢をイメージしてみんなで取り組んでいければ、若者を農業に呼び込む下地ももっとできるのではないかなと思います。その時に是非、農家の方々には昔はこんなやり方をしなかったとか、今時の若い者はこうだとか言わないで欲しいのです。それは先ほどのお米のとぎ方と同じような事が大変多いんです。昔と今とでは道具の発達が違う。科学的な解明も違う。それに乗っ取って実験的に頑張るという若者たちの意欲を認めて欲しいと思います。そして一緒になって地域で輸出相手地域を探して手を組んでいただきたい。その為には他の文化との握手も必要だと思います。農業だけではなく食糧だけではなくという事ですが、他のファッションや文学とか映画とかを含めて手を携え合って、日本は安心で安全な国土である、そして歳をとってもみんなが働ける場がある、だから少子化でも結果的にそれがみんなのご職業に就いている人口比、対人口比の高さに繋がったんだと。そしてそれを可能にしたのは私たちの持っている向上心と努力と長年培ってきた知恵が土台になっていると言えれば、胸を張って世界のどこででもお米も日本酒も野菜も果物も加工品も売れます。どうか明るい気持ちで過ごしていただきたいと思います。


里中 満智子
大阪市生まれ。16歳の時「ピアの肖像」で第1回講談社新人漫画賞を受賞しデビュー。1974年には「あした輝く」「姫が行く!」で講談社出版文化賞受賞。1980年「狩人の星座」で講談社漫画賞受賞。代表作に「あすなろ坂」「アリエスの乙女たち」など多数。万葉集の世界を描いた「天上の虹」を描き下ろし単行本という形で執筆中。現在、創作活動以外に(財)日本宇宙フォーラム理事、平城遷都1300年記念2010年委員会委員、国土交通省社会資本整備審議会歴史風土分科会委員などの公職を務めている。
文責:ごはんを食べよう国民運動推進協議会事務局

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