ごはんを食べよう国民運動

情報交換会特別講演

と き:平成16年6月18日(金)15:00〜16:00

ところ:都道府県会館101大会議室(東京)   

主 催:ごはんを食べよう国民運動推進協議会 


1. 特別講演:小林 カツ代 氏(料理研究家、エッセイスト)
講演テーマ: 「おいしく食べる幸せ−食の基本を考える−」

足立己幸特別 講演講師:小林 カツ代 氏(料理研究家、エッセイスト)

 大阪生まれ。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・講演など多方面に活躍中。
常に生活に視点を置き、あらゆるジャンルの料理をこなすが、それらすべて含めたものを家庭料理としてとらえる。テレビの料理番組に限らず、その個性が注目されテレビ・ラジオのバラエティ番組等にも出演する。
 阪神大震災の被災動物を救うため、またアフガニスタンの復興と女性や子どもたちの自立を支援するボランティア活動に取り組む。
 一方、家庭料理の器「kiai」をデザインし、平成3年度グッドデザイン選定。西荻窪に生活雑貨の店・小林カツ代のキッチン4、吉祥寺にカフェ&レストランKATSUYO GREENS、キッチン雑貨の店GOOD!Sをオープン。
 著書は約170冊にもなる。
■主な著書・雑誌記事等
『愛しのチー公へ』(筑摩書房)、美人粥』(文化出版局)、
『料理上手のコツ』(大和書房)、『実践 料理のへそ!』(文春新書)、
『小林カツ代料理の辞典』(朝日新聞社)のほか、
最新刊「カツ代ちゃーん!」(講談社)、
「小林カツ代はこんなにいろいろ食べてきた」(文藝春秋)

■講演要旨
皆様、こんにちは。
 今日は「ごはんを食べよう」が一番大事なテーマで、その関係者の方がほとんどだそうですが、いかに私がごはん好きで、白いごはんを大事に思っているか、皆さんがごはんを食べたくなるような話をしたいと思います。

【白いごはんは本当に飽きない】

足立己幸 私は非常にお米にご縁があって、毎年、秋田県で、全国の農家の人たちが作った自慢のお米の日本一を決める品評会の審査員をしておりました。
 関係者の方の準備もすごく大変で、お米も正確に3分後に研ぐとか、並べられている電気釜も3分ごとにでき上がるようにセッティングするとか、全部同じ条件にしないといけません。そして炊き上がった100近い種類のごはんを朝の8時半か9時から夕方まで、5人の審査員が壇上で食べ続けます。
 審査では、中身は一切知らされないで、ひたすら白いごはんが前に運ばれてくるんです。私も、最初は、95、6種類の、しかも厳選されてきた米を一口ずつ食べて、「これはおいしい」、「ちょっと違う」とかが分かるのか、すごく不安でした。でも、白いごはんというのは、90何種類食べても、全部個々に味が分かるのです。農家の人たちやお米の関係者の人たちが「どれを食べてもおいしいですね」とか、「どうして審査員には、違いがわかるんですか?」とおっしゃるぐらい、全部おいしいのですが、それでも微妙に味の違いがあるんです。それが5人とも共通していました。5人とも1位から3位ぐらいまでは、ほとんど同じなんですよ、不思議ですよね。
 一口ずつでも90何杯食べたら、大きな丼に山盛り6杯分にもなるのですが、昼休みはカレーライス、夜のお疲れ様会でもしょうゆをなじませたステーキでまたごはんをパクパク。審査会でごはんを6杯も食べたのにです。ごはんは食べてても、1口食べては次、1口食べては次と、欲求不満続きで、終わってからも白いごはんを山盛り食べたい。これは不思議ですが、毎年そうです。関係者の方に、5人は驚きの目で見られました。「何を召し上がりますか?」「ごはん」、「何を食べたいですか?」「ステーキ」。
 秋田の品評会でのそんな経験もあって、白いごはんは本当に飽きないのだと、あらためて思いました。
 テレビの仕事だとロケ弁当が多いのですが、おかずが甘辛く濃いのに、ごはんも炊き込みごはんのことがあります。最近は、日本料理を食べに行っても、最後に出てくるのが白いごはんでなくて、炊き込みごはんだったりするわけですね。濃い味のおかずに、また濃い味のごはんを食べる。私みたいなごはん好きは、お刺身が出た時には、必ず「ごはんください。」と言います。そういう時も白いごはんだと何とでも合いますが、色付きのごはんというのは、やっぱり合う物が限られてくる気がします。

【食に携わる人が無関心ではいけない】

 NHKの「きょうの料理」で5月におむすびの特集したことがありますが、ご覧になられた方いらっしゃいますか?「食」というものに関わってらっしゃる方がここに大勢いらっしゃると思います。自分は時間がないからとか、言い訳は聞きません、ビデオがあります。食に関係している、食に関する機器などを販売している方たち自身が、食に関心がない。仕事と分けていらっしゃる。しかし、そういう方たちが、食に興味を持つ、食を好きになって頂かなければと思います。
 先日は、食育関係のイベントで、議員の人たちが5人ほどエプロンつけて出てきたそうです。ほとんどの人が「初めてエプロンつけた」と言われたそうです。行ってきた人は「しらけた」とあきれていました。食育を考えるのに、ご当人たちが食のことに関心を持っていなければ、日本の子供たちの関心を食に寄せることができるかどうか。今の日本で欠けているのはそういった点だと思います。

【おむすびと手塩】

  「ごはん」というのは、とにかく大昔からありました。「おむすび」はというと、2000年前からあったんです。石川県鹿西町から、その時代のおむすびの化石が出てきたのです。
 私が町の郷土資料館を訪問した時は、化石は外に貸し出されていて、写真だけでした。三角で、2個の化石になっていまして、この時代には塩を使ってなかったのだなと思いました。塩を使っていると、必ず醗酵するので化石として残りません。塩というのは、おむすびのカバーになって、乾燥を防ぎます。おむすびに塩をしないと、カラカラ、カチカチになって、食べられなくなります。すごい知恵ですね。
 人の手の温度は、だいたい36度ちょっとです。塩を大体指2本か3本ぐらいでこう取って、手のひらに伸ばします。そうすると、一番甘くておいしい。手塩にかけて子供を育てると言いますが、この塩が大事なんです。まさしく手にかけて、手塩です。

【料理はリズム、おむすびもリズムで】

足立己幸 大体お米1合で、中に具を詰めると、おむすび3個は作れます。握る時は手の隙間を生かしながら、ホッ、ホッ、ホッと転がすわけです。すると、この指の間から水分が蒸発して、適度にくっつくだけの分量の水分が残ってくれます。もし、指をくっつけて「フンギュ、フンギュ」とすると、蒸気の逃げ場がなくて、熱々のごはんは必ずつぶれます。パクッと食べた時には、何ともいえず気持ち悪いです。料理っていうのは、ほとんどが呼吸です、リズムですね。
 友人のピアニストで、お好み焼屋さんになった人がいるのですが、他では食べたこともないようなおいしいお好み焼を焼きます。その手つきを見ていると、「ああ、リズムだな」と思いました。手つきが混ぜる時からホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッと、混ぜてシャー、そしてポッコン、シュシュシュ、シュシュシュ。私が「リズムだね」って言ったら、「そうよ、カツ代さん、料理は音楽よ、これはトントントン、三拍子でしょう、これは五拍子よ」って。そうなんです、どなたでも、料理は上手になるんです。皆さん、呼吸してらっしゃるでしょう、息してらっしゃるでしょう、それから、脈を打ってるでしょう。それに逆らって、例えばおむすびをウーンギャウギャっていうと、おかしくなります。
 おむすびは「気」で握りますから、リズムです。また、携行食で周りにお塩があるということで、外が乾かないわけですね。そして、三角に握ると、どこから食べても食べやすい。例えば、昔の人は、竹の皮に包んで背中に背負って、山を越え、野を越え、旅していたでしょう。三角ですから、歩けば歩くほどキュッキュッキュッと締まって、そして崩れません。ところが、楕円形やコロッケ型にすると、歩いているうちに崩れていくわけですよ。そんなことまで、昔の人は計算していたんですね。

【少女たちにおむすびを教えて】
 以前、ボランティアで全日本おむすび隊として、少女たちの矯正施設に行き、中学生の少女30人ほどにおむすびを教えたことがあります。初めておむすびを握る子ばかりでしたが、みんな指を2本か3本使って、塩を取って、おむすびを握りました。握るのは、ものすごく下手でしたが、みんなで一緒に作って、どこからでも食べれるようにお皿に盛っていきました。
 握り方が下手な人はいっぱいいます。けれども、塩の分量がおかしいおむすびに出会ったことがありません。どの子のおむすびもおいしいんです。「塩が足りないと思う人、手を挙げて。塩が強過ぎると思う人、手を挙げて」と聞いても、人の作ったおむすびを食べているのに、誰もいないんです。不思議でしょう?
 子供たちに塩をのせて、握っていくことを教えるでしょう。そうすると、心の中で何か取り戻していくんですね。握りながら無心に帰るというか本来の童心を取り戻すというか。
後で、手紙が来ました。「おむすびが握れるようになって、すごくうれしい」って。私、おむすびほどよくできているものはないと思ってるの。自分の手で握るということはすごいことなんです。みんながおむすび食べるようになると、ごはんは倍以上売れるだろうと思います。
  現代の『塩分のとり過ぎはいけない』が、いつの間にか『塩分はいけない』と思い込んでいる人、いっぱいおられます。でも、塩味の足りない料理というのは、当て所もない旅に出たような味になって、どこで感動していいのか分からない。減油、減糖、減塩って、薄味思考のご家庭がすごく多くなっていますが、塩のとりすぎはもちろんいけませんが、料理を決めるには、すごく大事な要素でもあります。
また、料理上手になりたいと言いながら、切れない包丁、安物の包丁を持っている人が、結構いらっしゃいます。包丁は、選び方が分からなかったら、値段で選ぶしかないです。5,000円以上で限りなく1万円に近く、1万円を超えても構わないです。それが100円包丁だったりすると、一生の損失です。

【カツオの手こねずしのおいしさに魅せられて】
 こちらに来る前に、ラジオの生放送に出演してきました。今日は「パエリア」の由来の話で終わってしまいましたが、来週は「カツオの手こねずし」の話をする予定です。
日本の食文化っておろそかにできないと思うのは、例えば、刺身に砂糖を使うっていうと、えっと思いがちですが、今年の春に伊勢へ講演で行った時にびっくりさせられたことがありました。昼食でカツオの手こねずしを出して頂き、一口食べた時は、「あら甘い」と思ったんですが、これが本当においしくて、またもや私は3杯食べてしまったんです。
 その時に食べたカツオの手こねずしがあまりにおいしかったので、自分の料理教室でも教えました。まず、刺身用のカツオを薄く切って、しょうゆを大さじ1だとしたら、砂糖が小さじ2分の1。ここで砂糖を使うのはカツオ独特の臭みを消すためです。その中に、チャッポン、チャッポンと薄く切ったカツオをつけていきます。リズムです。炊いた白いごはんは家中で一番大きな入れ物に移して、市販の寿司酢をごはんの上にかけます。市販の寿司酢は普段は甘くて嫌なんですが、これにはぴったりです。今度はしょうがの千切りと全体が青くなるくらいシソのみじん切りをバーッと入れて、全部を混ぜます。そうすると、熱いごはんにのせるから、みるみるシソは色が変わります。これは、シソの色が変わってしまうので、家庭で食べるのに向いています。それを混ぜて平らにして、その上につけておいたカツオをと並べます。本当は、このカツオは前日からつけておく方がいいです。ごはんがあるからこそ、カツオのおいしさが引き立ちます。
 毎週、そのラジオでは、そういった話をしていて、300回にもなります。今日は、家に帰ってからカツオの手こねずしを習ってきたと自慢してくださいね。

【男性の長生きの秘訣は自ら料理を楽しむこと】

 平成元年から、男性のお年寄りを対象に料理を教えてまして、今年で16年目に入りました。当時70代と80代の、料理はしたことない、楽しくないという方ばかりでした。奥さんが勝手に申し込んだり、こちらに来る前に2年も料理を習っていらしたけど、「ぎょうざの皮のひだは5つでなければいけません」と、かなり細やかな先生に習っていらした。私は、「ひだは3つでも5つでもくっつけばいいですよ」という教え方をしてますので、15年も続きました。そうすると、背筋が伸びてこられたんです。顔色もピカピカです。今では「お父さんのお吸い物食べたら、他のは食べられないわ。」とか言われるぐらい、喜ばれていて、また全員ご健在です。何でも食べられて、何でも作れる。そして、本当にいいことは、1人になった時、自分の口に合うものが作れることが、どんなに幸せなことかがお分かりになったということだと思います。

【「実践 料理のへそ!」から】

 今日は、「実践 料理のへそ!」と「小林カツ代はいろいろ食べてきた」という本を持ってまいりました。
ごはんのことを100ページ余りの本に65ページも割いて、「白いごはんはいかにおいしいか」を話しています。 最後にこの一文を読んで終わろうと思います。
卵かけごはんの章ですが、「炊きたての白いごはんがあれば恐るるものなし。無敵です。あつあつのごはんはすぐできる。しておかずは?思いが定まらないときに、ふと頭に浮かんで、そうだ、これだと幸せになるものありませんか?卵かけごはん。1杯食べるともう1杯食べたくなる卵かけごはん。こんなのがあるのは、日本だけですよ、すばらしい。何たってこれは炊きたてのごはんがなくては成立しない。」
 卵かけごはんでも、たくさんの流儀があって、どれだけ楽しく食べられるかの話です。このように、いつもごはんのおかずになるようにと思って、米料理の本を170冊も出してきました。皆様も、この「料理のへそ」だけではなく、他の本もお読みくださるとうれしい限りです。

本日はどうもありがとうございました。

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