藤岡 弘 特別講演

開催日:平成13 年5 月18 日(金)
開催場所:クロスタワーホール (東京 渋谷)
主催:ごはんを食べよう国民運動推進協議会

テーマ「日本の心、お米〜伝統を食べる」
藤岡 弘 講師 藤岡 弘(俳優)〜プロフィール〜
1946 年、愛媛県生まれ。71 年より「仮面ライダー」の初代主役を演じる。その後も、日本はもとよりアメリカ、香港など世界で活躍中。アメリカ映画「SWORDKILL 」では、パリ国際ファンタスティック&SF 映画祭批評家賞受賞。東京国際映画祭ファンタスティック映画祭ヒーロー賞受賞。武道家としても知られ、空手、柔道、刀道、抜刀道など、いずれも有段者。その一方、ボランティア活動では、民間団体の理事を務め、世界各地へ援助活動に赴いている。また、食生活にもこだわり、日本の食材を基本に伝統食を中心に心がけている料理人(調理師免許所持)でもある。

武道とお米の深い関係私は今、日本の現状をいろいろと憂いており、世界中回っていますと日本がよく見えてきます。これまで7 、80 カ国回り、毎年5 、6 カ国、多いときではもっと回っていますが、日本ほどすばらしい国はないと思っています。日本列島は四季折々の珍味、いわゆる海の幸、山の幸があり、そして食文化も豊かです。

藤岡家は代々和食一辺倒で、私の身体の頑丈な基礎は日本の食、もちろん米です。私は何が一番好きかというと母の握ったおむすびなんです。母のおむすびは特別おいしくて、普通の塩ではなく天然塩を使って本当に心を込めて、魂を込めて梅干しを入れて握ってくれる。私はその一個のおむすびを、母の愛を食べてきたと思っています。私は愛媛県出身で、瀬戸内海の小魚、ちりめんじゃこも入っており、海の幸と山の幸、イモ類も好きでそれを食べて、父親の厳しい武道修行にも耐えてこの身体をつくってきました。

講演風景  私の経験上、武道をやるときに米なくしてはありえない。なぜならば集中力が違うんです。忍耐力・持久力・集中力・気力まったく違うんですね。うちに来る若者たちを指導していると、20 代の若者でも私の体力にはついてこれません。よくよく聞いてみると、彼らは朝食をパンにしており、和食中心ではないわけですね。それが悪いとは言っておりません。ただ、私は古来から伝わってきた和食、そして私の好きな梅干し・みそ・小魚・海苔・みそ汁・イモ類・豆類、これが私の基礎なんです。今でも毎日私は重い日本刀を振っておりますが、まったく集中力、持久力は揺るぎません。日本刀で真剣切りをしても、一瞬の気を入れて一瞬で断ち切る、その妙味あるバランスはまさしく日本の食にあると思っております。我慢すること耐えること、そして分をわきまえること、足ることを知るという日本文化の最たる武士道精神をたたき込まれた私としては、まず我慢することと耐えること、これが日本食の米によってなされたわけです。

実は私はアメリカで「SF ソード・キル」というアメリカ映画の日本人で初めての主演をやりました。これは、冷凍の氷の中から発見された400 年前の日本の武士をアメリカの医学の力で蘇生させるという映画でした。その時に私が日本刀の真剣を持って行き、初めてアメリカのハリウッドのど真ん中で、日本の侍の馬の乗り方、本物の剣をどのように扱うかということを実践して見せました。アメリカでの毎日の食事は、肉・野菜・パンで、1 週間くらいは食べられましたが、その後は身体が受け付けませんでした。私はそれを予測して、持っていった炊飯器と米・味噌・梅干し・海苔・小魚・納豆そういう物を食べていました。毎朝、おむすびを頬張りながら撮影に向かい、そして小魚と海苔を食べました。これがアメリカでの約半年にわたる撮影を耐え切れた唯一の私の力でした。私の持久力、集中力は、まさしく日本食の米にあると確信しております。

豊かな自然と伝統文化(食文化)を育んできた日本 そして帰って日本を見ますと、日本のすばらしさがよく分かりました。春・夏・秋・冬によって精神まで鍛えられ、自然に感謝し、生かされし我が命に心より感謝する精神が作られたのは、まさしく日本の食であろうと察するわけであります。今、日本の伝統的な食がどんどんなくなっていることを聞き憂いております。世界人口も今61 億、10 年後70億、20 年経つと80 億というように食料難が必ずやってくる。また科学だけでは21 世紀は超えられないということは皆さんもよく知っていると思います。食料難だけじゃなく、人口の増加、環境問題、エネルギー問題、オゾン層問題等あらゆる問題がこれからは壁になっておりますが、最も重要なのは食料問題です。そう考えると日本は自給自足できていない。40 %と悲しく、しかしながら日本は米だけは自給自足できるのです。

  私は、この地球上において餓死する民を、ボランティアに行って見てまいりました。皆さん、餓死するほど苦しいものはありません。この前行きましたスーダンでは、内戦と内乱で難民が群となり、国境沿いには子供たちや弱き婦女子たちが毎日バタバタと倒れ、餓死している。東アフリカ6 ヵ国では1 ,900 万人という飢餓です。飢餓ですよ。飢えて死んでいる。日本は今大変な食料輸入国です。自分の国の民族が自分の国でもって賄えないなんて、先進国ではないですね。こうやっているうちにも世界では何人も餓死しているわけです。このことを伝えるのは家庭の中の父親と母親です。親がまず子供達に率先して見せなければいけません。日本の歴史とは何か、民族の歴史とは何か、どこの家庭でもそういう伝統と文化を伝えてきたわけです。

今や国際的に寿司が日本の伝統文化の象徴となっています。アメリカにも寿司店が400 店舗ほどあるそうです。寿司はアメリカ人にとってはヘルスフードといわれています。1 週間に1 度日本食が食べられるということは、アメリカ人にとってステイタスとなっています。日本食ほど健康にいいものはないということを彼らは知っているんです。「食べ物そのものはその人である。食べたそのものがその人を表す」とアメリカではいわれます。まさしく食べ物によってその人間の行動や動きが見えてくる。今日本の若者たちの暴走というのはなんでしょうか。やはり食べ物が影響しているのではないかと思うわけです。自分を自制する、コントロールする、自主管理する、己を収める、耐える、我慢する、分をわきまえ、足ることを知る、責任をとる、恥を知る、誇りを失わない、そういうふうな民族性、日本の伝統というものが今やすべて崩壊しつつある。それはすべて日本の食文化の中から培ってきたものだと私は思うわけです。

世界を見てきて思ったのは、驚くことに日本列島どこに行っても神社・仏閣・ほこらがある。それほど日本という国は自然との対話、見えない大いなるものを恐れ、自然に対して感謝するという気持ちを持った民族でした。それは徳を積んでいく民族、つまり自然に対して敬いながら自然に祈願をする。どこの神社にも仏閣にも豊作や豊漁、そして安産を祝いながら子孫永々たる繁栄、つまり生命の連続性に対する祈りを捧げてきたわけですね。

>>>02へ

◆講演録にもどる  ◆平成13年にもどる


【 ごはんを食べよう国民運動推進協議会】